連載 医学古書を紐解く・3
推理小説のように面白く,腹部画像診断に革命を起こした本—Meyers MA『Dynamic Radiology of the Abdomen』
仲田 和正
1
1西伊豆健育会病院
pp.596-597
発行日 2023年3月10日
Published Date 2023/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402228823
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私がMeyersの『Dynamic Radiology of the Abdomen』1)を通読したのは1979年,今の静岡県立総合病院の前身である静岡県立中央病院で研修医2年目を過ごしていたときであった.当時はまだCTが普及しておらず,CTを撮る必要が生じたときは,静岡市で初めてCTを導入した静岡赤十字病院に依頼していた.また,血管造影も今のようなやり方ではなくて,例えば頭部の血管造影をするときは,頸動脈に針を刺して,「1,2,3!」でドンと造影剤を入れ,そのタイミングに合わせて写真を撮る.つまり,たった1枚しか撮れないのである.あるとき,昏睡状態の患者が搬送されてきて血管造影をしたところ,硬膜下血腫があるともないとも思えるような写真が撮れた.最終的に「これは硬膜下血腫に違いない」と判断してストレッチャーで患者をオペ室へ運んでいたら,なんと途中で患者が目を覚まし「ああ,よく寝た.2日間寝てなかった」と言うではないか.危うく手術をするところであった.
そのようなまだCTが普及していない時代,本書は推理小説のように面白い本であった.この本の評者には,「無人島に持っていく3冊のうちの1冊!」と言う人もいるほどである(ちなみに司馬遼太郎はもし1冊持っていくとしたら『歎異抄』と答えている.こちらもぜひ読んでいただきたい).あまりに面白かったので,私は居酒屋にこの本を持ち込んで,カウンターでビールを飲みつつ読み進め,結局,ほぼ居酒屋だけで通読した.
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