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本書を良書と呼ばずして何を良書と呼ぶのでしょう? 秀でた書物,優れた書物であることに異論を挟む読者はいないと思います.がん薬物療法の最前線で患者ケアに携わる医療者には,是非一冊お手元に置くことを万感の想いから強くお勧めします.著者のシャイな気質を反映してか,一見マニュアル本的な印象を受ける書名と装丁ですが,その内容は成書以上です.すなわち,成書にありがちな総花的で,内容に濃淡もなく,やたらに詳しい余分な記述といったものが一切ありません.臨床上のポイントを的確に抽出,詳述し,そして理解を助けるために美しいイラストと表を多用しています.知っておくべきキーワードは欄外に簡潔に説明されています.またMEMO欄とNote欄も設け,前者では大切な「用語」や「コンセプト」について詳解されていますし,後者では臨床上実際の場面で「どうしたらよいのか?」について指南されています.
本書は「がんエマージェンシー」というくくりから,15項目にわたる章立てとなっています.確かに内容は,緊急的,救急的な病態・事象についての解説となっていますが,その病態を理解するために,腎臓内科,内分泌内科といった単子眼的,臓器診療科的見地からの狭い解説ではなく,広く臓器横断的であることはもちろん,生化学,分子生物学,臨床薬理学といったように基礎・臨床の双方を背景として詳述されているため,精緻な解説書となっています.さらには,患者教育やいわゆるムンテラと言われるIC(インフォームドコンセント)や情報提供にまで解説は及んでいます.例えば第2章「抗がん剤の血管外漏出」を見ると,通常のマニュアル書ではその対応法が形ばかり述べられる程度であるのに反し,本書では通常のマニュアル書が触れない皮静脈穿刺法を正統的に説明し,さらにはそのコツともいうべきノウ・ハウと終了までの観察法や記録方法にまで言及しています.これは,いかに著者が臨床医として優れて稀有な存在であるかを物語ると同時に,医療者教育に対する並み並みならぬ決意の表出でもあると思えます.目の前のがんエマージェンシーの患者さんをどうするか? 教科書の硬直した理屈・知識ではなく,ベッドサイド重視で実践を重んじ,柔軟でかつ即応できる医療者育成には本書のようなテキストが必要と考え,著者は執筆されたことと思います.
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