今月の主題 体液・電解質補正の実際
輸液療法の変遷と進歩
加藤 暎一
1
,
東 冬彦
1,2
1慶応義塾大学医学部・内科
2東京電力病院・内科
pp.928-930
発行日 1986年6月10日
Published Date 1986/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220384
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輸液療法の歴史
水,電解質バランスは生体のhomeostasisの要である.このhomeostasisが乱れた,あるいは乱れる恐れのある場合,これを是正あるいは予防しようというのが輸液療法である.Claude Bernardが体液を内部環境(milieu interieur)と呼んでhomeostasisの重要性を示唆したのは,すでに1859年であるが,歴史上の最初の輸液はそれからさらに30年前に(今から約150年前),英国のLattaがコレラの患者に行ったものである.この端緒となったのはその前年1831年Lancet誌上に英国のO'Shaughnessyが投稿した,コレラの病態生理の中心は下痢のための脱水による血液濃縮とAcidosisにあるとした編集者あての短い手紙であった.そのとき,Lattaが用いた輸液の組成は0.4%NaCl液,0.3%NaHCO3液でほぼ等張液であり,脱水とAcidosisの是正には合理的である.しかし,当時,輸液は直ちに日常臨床にとり入れられたわけでなくそのまま忘れられてしまった.その60年後ナポリでのコレラの大流行時に,再びCantaniによって輸液の重要性が再発見された.しかし,この際も受け入れられず,最終的にコレラに輸液が必要であると確認されたのは,今世紀初頭にインドとフィリピンで英国人の医師によってであった.
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