天地人
われに悔なく
聖
pp.1157
発行日 1984年6月10日
Published Date 1984/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402219107
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昭和22年9月15日の東京世田谷局の消印のある1枚の古いはがきがある.チェホフ全集やトルストイ全集の訳者として著名なロシヤ文学者の中村白葉氏(1890〜1973)からのもので,学生であった私が,訳者である氏に,チェホフの「桜の園」の上演許可とアドバイスをお願いしたものへの返事が,枯れた達筆な文字でしたためてある.敗戦後の窮迫時代を反映して,はがきの紙質は粗悪で,宛名の面に,CCDJ 2398の文字の入った進駐軍による検閲スタンプが捺印してある.当時は信書の検閲があり,上演戯曲の内容も検閲から逃れることはできない時代であった.敗戦後間もないころの世相が1枚のはがきに滲んでいる.
……御上京の節おより下されば,多少参考になる図などもあると思ひますが,とにかく御成功を祈ります……と結んである.その頃,いっぱしの進歩を気取った医学生達が,「桜の園」や「どん底」などの大作を,臆面もなく演じたのだが,いま思えば,まことに汗顔のいたりであった.
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