今月の主題 酸塩基平衡の異常
臨床での酸塩基平衡異常
救急手術(多発外傷,急性腹症)—術前,術後
前川 和彦
1
Kazuhiko Maekawa
1
1北里大学病院・救命救急センター
pp.830-831
発行日 1984年5月10日
Published Date 1984/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402219028
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多発外傷
病態生理 外傷性ショックの基本病態は,有効循環血液量および機能的細胞外液の減少で特徴づけられる.しかし,組織の挫滅や臓器損傷,なかでも心,肺,中枢神経系などの生命臓器損傷による機能障害が加わって,単純な出血性ショックとは大いにその様相を異にする.外傷患者の来院時における酸塩基平衡の変化は,主に代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスである(図1A).ショックに伴う組織の血流障害およびショック,肺損傷などによる低酸素症はいずれも糖の嫌気性解糖を亢進させ,乳酸産生の増加,肝での乳酸利用の低下をもたらし,結果としてanion gapの増加を伴う代謝性アシドーシスをみる.ショック時の組織の好気性糖代謝の障害を示す指標として,血液の酸塩基平衡以外に,血中乳酸値,乳酸/ピルビン酸比,excess lactate,組織のRedox状態を反映する血中ケトン体比(アセト酢酸/βヒドロキシ酪酸)などがある.
気道の閉塞,胸腹部外傷に伴う換気障害,中枢性の呼吸抑制などがない限り外傷患者の呼吸は過換気に傾き,代償性の呼吸性アルカローシスを呈する.外傷患者の代謝性アシドーシスの程度は,ショックの重症度,持続時間,合併損傷などに左右される.脈拍数÷収縮期血圧で表わされるショック指数(正常値:0.54±0.03)は,実用範囲内では出血量と直線的相関がある.
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