天地人
レコード今昔
楽
pp.315
発行日 1983年2月10日
Published Date 1983/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218160
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最近のレコード界最大の話題はコンパクトディスクの出現であろう.これまで100年もの間,録音やレコード製造の技術に著しい進歩はあったにしても,溝を針でこすって音を出すという原理に変りはなかった.それがアルミ盤に刻みこまれたデジタル信号にレーザー光線を当て,その反射光の強弱を読みとって音に変え,わずか12cmの盤に60分間録音できるというのだから,まさに革命的なレコードである.
私がレコードを聴き始めたのは幼稚園の頃のことだから,55〜6年も前になる.雲母の振動板の付いたサウンドボックス,ゼンマイ仕掛けの蓄音器で,すさまじいスクラッチノイズの中から聴こえてくる「軍艦マーチ」や「軽騎兵序曲」に手をたたいたものである.本格的に音楽に興味をもってレコードを聴き始めたのは中学二年生の頃.最初に買ったのがストコフスキー指揮,フィラデルフィア管弦楽団によるドボルザークの「新世界」.以後レコード音楽のとりこになってしまったが,当時の地方都市ではナマの西洋音楽を聴く機会は皆無に近かったので,音楽を聴くこと即レコードを聴くことだった.しかしレコードの値段が何とも高い.昭和15年に上京した頃,六畳一間,二食付きの下宿料が25円だったが,ビクター12吋赤盤が3円50銭.ベートーベンの交響曲一曲で一月の下宿代の7〜8割が飛ぶ勘定になる.これを思うと現在の音質の良いステレオ盤が2,800円というのは安いと思う.
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