図解病態のしくみ 消化器疾患・11
過敏性大腸症(1)—病態生理・その1
松枝 啓
1
Kei MATSUEDA
1
1国立病院医療センター・消化器内科
pp.1778-1781
発行日 1980年11月10日
Published Date 1980/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216767
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はじめに
過敏性大腸症は,消化器科受診患者の60%を占めるほど多い疾患で,"過敏性大腸症を制する者は消化器を制する"とまでいわれているが,この疾患にはまだ不明のことが多く,臨床上多くの問題を残している.すなわち,過敏性大腸症の症状自体は非特異的であり,種々の炎症性腸疾患や吸収不良をきたす疾患と酷似しているため確定診断が困難である.一方,長期治療を必要とするかもしれず,その治療は経験的かつ対症療法的で治療効果も一定しない.さらに,過敏性大腸症における精神的ストレスの役割についても未だ完全には理解されていない.以上のような理由で,過敏性大腸症の患者はわれわれ臨床医にとっては大きなChallengeであり,また興味ある疾患の一つである.
しかし,過敏性大腸症は,最近では腸管の運動異常(Intestinal Motility Disorder)と考えられており,その診断の多くは除外診断によってなされる、そして,その症状は種々の神経ホルモン的または精神社会的な因子によって修飾される.したがって,過敏性大腸症の効果的治療を行うには,その疾患の完全な治癒を求めるのではなく,症状の軽減をはかり,その疾患に対する患者の順応性を促進する方向で種々のアプローチがなされるべきである.
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