天地人
塞翁が馬
天
pp.153
発行日 1980年1月10日
Published Date 1980/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216386
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ある著書の序文で,「洛陽の紙価を高める」という表現をしたら,若い先生から,屑物屋が儲かったという意味ですか,といわれた.この前の「天」の欄(vol. 16 no. 9p. 1439)で,「塞翁が馬」ということを書いて20代の女性十人に読んでもらったら,十人ことごとくその意味を知らなかった.われわれがごく常識だと思っている漢語の表現も,今の若い人にはまるで外国語で,しかし,そのような人々が読者の大半を占めているとすると,物を書く側はよほど注意しなければならぬと思った.まさしく「頂門の一針」である,とまたまたわれらが世代はすぐに書きたくなるのである.だが,さきの随筆は,塞翁が馬の故事をわかってもらえないと面白くないので,ここに改めてその原典を書いてみることにする.
辺境にすむ翁が馬を飼っていた.ある日その馬が隣国の胡に逃げてしまった.気の毒だと思っていたら,その馬が胡の駿馬をつれてもどってきた.しかしその翁は喜ばなかったのである.間もなく,その息子が駿馬にのって落馬し,大腿骨骨折をおこして破になってしまった.この禍もやがては幸のもとになる.1年あまり後,胡の軍勢が辺境に攻めこんできた.五体満足なものは徴兵としてかり出され,十人のうち九人は死んだ.息子は跛のおかげで戦にかり出されず,父子ともども生きながらえたというのである.
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