臨床医のための心の科学
全人的医療と宗教の接点:「病院チャプレイン」
樋口 和彦
1
1同志社大神学部
pp.1580-1581
発行日 1979年10月10日
Published Date 1979/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216096
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はじめに
今日まで,とくにわが国においては病院やその他の医療機関の中には直接的には宗教をもちこまないことが常識となってきた,呪術的な医療行為など近代科学以前の宗教が近代病院の中にもちこまれれば,医療行為がいたずらに混乱して,大変迷惑な話である.したがって,これらの擬似科学的な被害から,患者を保護するということは,むしろ人間にとって幸福な医学の恩恵であったろう.したがって,それぞれの医療機関の長は,そのような災害が及ばないように入院患者を保護し,できるだけ早く回復させ,退院させるように努力してきた.この原則は当分変わりそうもない.筆者も原則として賛成で何も異論をさしはさもうと思ってはいない.むしろ管理という面で病院は常に原則としてかくあるべきだと思っている.
しかしながら,以下の事情から,原則は原則としながらも,医学と宗教の幸福な一致のためもう一歩踏み込んで考える必要があるのではないだろうか.第1に患者は病気の治療だけでなく,病人という状態からの脱出を願っている.身体上の病気は回復しても,心気症のように病人の状態から脱け出せないものの増大など,心身症的症候群がある.第2にターミナル・ケアなど,医学的には回復の手段がない場合でも,宗教的に行うべき看護の分野が考えられる.
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