忘れられない患者・私の失敗例
MCLS
石垣 四郎
pp.1456
発行日 1976年10月10日
Published Date 1976/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206802
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約20年間の病院勤務と6年間の開業医生活の中には,忘れがたい印象を残して去来した幾多の子ども達の顔が浮かんでくる.昭和43年11月5日に,神戸市立中央市民病院小児科に入院してきた4ヵ月の乳児も,その1例である.この患児は入院5日前頃から咳がでていたが,4日前より38℃の発熱があり,顔色が著しく不良となった.また2日前から全身に発疹が出現し,一向に解熱の徴がないために入院してきたのである.みると全身に麻疹様紅斑があり,四肢には多形滲出性紅斑を思わせる発疹がある里手掌,足蹠はびまん性に発赤し,眼球結膜の充血も著明である.頸部にはえん豆大のリンパ節を触れる.心,肺に異常なし.肝は1cmに触れる.白血球数15000,Hb 11.1g/dl,尿蛋白陽性,尿沈渣に多数の白血球を認める.入院後は抗生物質とステロイド剤により解熱,症状はいったん軽快するが,ステロイド剤を中止すると再び症状が再燃する.指尖部の落屑も認めるようになる.3回の再燃をくりかえした後に次第に回復をした.以上の経過から,読者もおそらく直ちに診断をくだされるように,急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(MCLS)と診断した.本疾患は前年の昭和42年に川崎富作博士により報告されたもので,小児科医の関心を惹いたものであった.入院後約1ヵ月を経過して,一般状態も良く,退院を考慮していた矢先のことである.
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