私の失敗例・忘れられない患者
老年者の水・電解質バランス
岩崎 栄
1
1国立長崎中央病院内科
pp.1329
発行日 1976年9月10日
Published Date 1976/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206761
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患者は72歳の元教授で,某病院で膵臓癌を疑われ,私どもの病院へ50年6月9日入院.食思不振のほかさしたる訴えもなく,入院時所見として,顔面やや浮腫状,るいそう著明.血圧84/54mmHg.脈拍数90/分,やや微弱.頸部静脈怒張なく,心音純なるも弱く,両肺中下部に湿性ラ音聴取肝は右季肋下3横指触知,硬度弾力性やや硬.下肢浮腫を認めた.心電図は低電位差,V1〜2QSパターン,V3rS,PV1の二相性より陳旧性前壁中隔梗塞と左房負荷.
以上の所見から,うっ血性心不全と診断した.なお,入院時の胸部X線で楕円形の腫瘤状陰影が毛髪線上に一致し,右側面像では,腫瘤状陰影は上・中葉間肋膜腔に貯留した液体と判明した.いわゆる,うっ血性心不全による"vanishing tumor"であった.この患者の心不全の原因は,心筋梗塞,動脈硬化性心臓病によると考えられ,顔面浮腫,肝腫大,下肢浮腫,頻脈,脈拍微弱,低血圧の所見は,すべて心不全の症状として一元的に理解できる.このように,一般に老人における疾病の症状は,潜在性で慢性的である.そして,いつ病気がはじまって,どのように進行しているのか判断に苦しむ場合がある.しかも,自覚的にほとんど症状を訴えないことが多い,この患者の場合も,2ヵ月前の胸部X線ですでに腫瘤状陰影が存在していたのである.
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