今月の主題 消化管潰瘍—診断および治療の現況
消化性潰瘍の成因と診断
ストレス潰瘍
木原 彊
1
1川崎医大消化器内科
pp.1052-1053
発行日 1975年6月10日
Published Date 1975/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206076
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ストレス学説と消化性潰瘍
ストレスという言葉は一種の流行語のように用いられ,胃潰瘍と診断されると「ああストレス潰瘍ですか」などと患者さんの方から成因を説明?してくれるような時代である.しかし,いろいろな病気を局所的な病気でなく心身を含めた全身病として考え,治療しなければならないということは,多くの人々には全く理解されていない.また,これほど無責任に用いられている学術用語はない.ストレスという言葉はもともと機械工学の分野で用いられ,作動する機械の力学的バランスにひずみがかかっている状態をストレスがかかっていると表現されていたのである.
医学の領域でストレスなる表現で生体の病態像を記載したのは,W. B. Cannonである1).その後,有名なカナダのHans Selyeによりストレス学説が展開された2).彼は生体に対する何らかの刺激stressor;わが国では一般にストレスとよばれているのでストレスという言葉を利用する)が加わると,その種類の如何を問わず副腎の肥大,胸腺の萎縮が起こり,胃では急性の潰瘍性変化が認められることを見出し,ホメオステーシスによってコントロールされている生体と外界の刺激との間の関わりあいや対立の過程で生ずる生物現象や疾病の成りたちを弁証法的に論理づけたのである.
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