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動脈硬化症および細小動脈硬化症
糖尿病の際には太い動脈にも強い硬化症の起こることは広く知られている.日常剖検に携っていても,年齢不相応な高度の大動脈硬化症のある場合には糖尿病の家族的素因などをあらためて問いなおすほど,糖尿病と動脈硬化症の関係は密接である.そしてどちらかというと,小動脈の方に硬化がきやすく,これが心筋硬塞,脳出血など血管障害による死亡率を高める原因となっている.この程度の大きさの動脈では,光顕レベルの組織所見では通常の動脈硬化症と差はない.
糸球体輸出入動脈程度の太さのいわゆる細動脈とよばれている血管では,図1に示すような型の動脈硬化症がみられ,通常の線維性の硬化と少し組織像を異にしている.すなわち,内皮細胞の下から筋層にかけてエオジンで濃染,均等に染まり,マロリー染色では赤く,脂肪染色も弱陽性である.lipo-hyalin型の動脈硬化症,subintimal "hyalin" depositionなどとよばれるもので,Blumenthalはこれとほぼ同じ変化をPAS陽性の肥厚としてとらえ,hemodynamic lesionとよんでいる1).この型の動脈硬化症も糖尿病以外の場合に全くみられないわけではない.しかし腎臓を例にとると,高齢者,その他でこの変化が糸球体輸入動脈にみられる場合には,通常はそれより太い動脈,すなわち弓動脈,小葉間動脈などに動脈硬化症がみられる.ところが糖尿病の場合には,これらの太い動脈にほとんど硬化症のみられない時期に,lipo-hyalin型の動脈硬化症が輸入血管に起こってくる.いいかえれば,光顕で腎臓に最初にみつけだすことのできる糖尿病性の組織変化はこの型の動脈硬化症であるといえる.日常,糖尿病の剖検例を注意してみていると,この大きさの血管では糸球体輸入動脈のみならず,肺,膵,肝,副腎など多くの臓器にこれと同じような型の動脈硬化症が現れている.ただ,その臨床的意義や診断的価値がはっきりしないので,一般的には動脈硬化症や時にはmicroangiopathyに含めて論じられていて系統的には調べられていないようである.一方に大動脈硬化症,股動脈におけるMonckeberg型の硬化症,心冠動脈硬化症など太い動脈の硬化症をおき,他方に毛細血管レベルのmicroangiopathyをおくと,このlipo-hyalin型の動脈硬化症はその中間の大きさの動脈にみられる変化ということができよう.糖尿病におけるこの型の動脈硬化症については将来検討の余地が残されているように思われる.
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