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細小血管障害を起こさないためのHbA1Cの閾値は存在するのか
細小血管障害の発症や進展を予防する最も有用な手段は血糖コントロールを正常レベルに近づけることである.
DCCT(Diabetes Control and Complications Trial)は,1型糖尿病における強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールが,細小血管合併症の発症および進展を予防するかどうかを検討した大規模臨床研究である1).一次予防の検討として網膜症のない患者726例,二次予防の検討として網膜症を有する患者715例の計1,441例の1型糖尿病患者(高血圧,高脂血症,重篤な合併症・疾患を有しない患者)を対象とし,強化療法群と従来療法群に無作為に割り付け,合併症の発症と進展の比較が行われた.強化療法群では,1日3回以上のインスリン頻回注射または持続注入法を用い,血糖自己測定,月1回の受診と頻回の医師・療養指導士による指導によりできるかぎり正常血糖に近づくように治療を行った.従来療法群では1日1~2回程度のインスリン注射と3カ月ごとの通院を行った.平均6.5年間の追跡調査が行われたが,従来療法群では平均HbA1Cが8.9%であったのに対し,強化療法群の平均HbA1Cは7.0%にコントロールされた.新たな網膜症の発症は強化療法群11.5%,従来療法群54.1%であり,強化療法群は従来療法群に比較して網膜症発症のリスクが76%軽減し,網膜症の進展も強化療法群17.1%,従来療法群54.1%と網膜症進展のリスクが54%軽減された.腎症に関しては,強化療法により,アルブミン尿期への進展のリスクが39%軽減され,顕性蛋白尿期への進展のリスクが54%軽減した.また,神経障害の発症を60%抑制した.しかし,合併症の発症率と進展率はともにHbA1Cと正の相関を示しており(Box 1),DCCTの結果からは細小血管障害を起こさないためのHbA1Cの閾値は見出せなかった.つまり,合併症を予防するには正常レベルの血糖コントロールに近づけていければ近づけるほどよいということである.
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