今月の主題 最近の老人病—臨床とその特異性
みなおされてきた老人の疾患
正常圧水頭症
矢田 賢三
1
1北里大脳神経外科
pp.2060-2061
発行日 1973年12月10日
Published Date 1973/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402205218
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中年期から老年期に発現する知能低下を主徴とする疾患の多くは,脳動脈病変による脳の血行障害,Alzheimer氏病,Pick氏病,脳梅毒等,脳実質の障害による疾患によって占められており,したがって,治療を行なっても知能の回復の期待できないばあいが多い,正常圧水頭症も,知能低下を主症状とするために,従来これらの疾患にまぎれて,加療されずに放置されていた例が多いと考えられるが,本疾患は,治療によって著しい症状の改善がみられるので,その数は多いものではないが,上記の諸疾患と注意深く鑑別することが望まれる.
正常圧水頭症の定義,発生機序等については,未だ明確にされていないが,一般的にうけ入れられているものとしては,上記諸疾患のような,脳実質の方に一次的な脳萎縮をきたす病変がなく,髄液圧の亢進がないにもかかわらず進行性に脳室系の拡大をきたして二次的な脳機能の低下をきたす状態で,脳室心房交通術によってその症状の著しい改善の認められるものをさしている.このような状態を惹起する原因としては,外傷,くも膜下出血などの他に,原因不明のもの(非顕性の髄膜炎などが可能性として考えられている)があり,前二者のばあいには,この状態の診断もさほどむずかしくないが,原因がはっきりせずに,正常圧水頭症が発現してきたばあいには,Alzheimer氏病その他の一次的な脳疾患との鑑別が問題となる.
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