ある地方医の手紙・13
「ブッ返る!」(2)
穴澤 咊光
1
1穴澤病院
pp.946-947
発行日 1973年7月10日
Published Date 1973/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204839
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W先生.
春の弥生の3月も,雪国の当地では,まだ厳冬の延長,まして我々にとっては,2-3月はまさに「交通戦争」ならぬ「卒中戦争」が最高潮に達し,ブッ倒れるほど忙しい季節.とても「春は名のみの風の寒さや……」などといった呑気な感傷に浸るどころではありません.市消防署の救急車は日夜をとわず,ピーポー,ピーポーと不吉な警笛を町や村にまき散らして雪道を疾駆し,当市の公私立の病院はほとんどが満床となり各病院の空床の有無を問合わせるA地方広域救急対策本部の必死の電話のベルが鳴り響きます.大病院のベッドにあぶれた脳卒中患者が単なる「救急協力病院」にすぎない当院にも次々に転送されてきます.もう当科入院患者(約90名)の1/4近くは脳卒中患者で,ときには一度に何人もの患者が昏睡状態で枕を並べてO2吸入を受ける光景は実に壮観無類です.今日の昼過ぎも,脳出血で倒れた患者が入院後24時間とたたぬうち死亡して,ロクに死後処置も済まぬうちに救急隊がまた「お代り」の卒中患者を送りこんできました.ベッドのやりくりがつかず,哀れ新仏は臨終のベッドを新患の卒中患者にあけ渡し,追いたてられるようにして入れ違いに霊柩車に乗って自宅へ……
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