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膵障害とは無関係の場合もありうる
膵障害の診断に対する血液アミラーゼ測定の意義は,現在でもなおきわめて大きい.とくに急性膵炎の初期,あるいは慢性膵炎の急性発作期などでは有力な診断根拠となる.しかしながら,血液アミラーゼ値の臨床的意義を解釈するにあたってはつぎの2つの事項を念頭におく必要がある.1つは膵障害にはかならずしも血液アミラーゼ値の異常を伴わないということである.急性期では多くの症例において異常上昇を認めるが,ある期間を経過すれば急速に正常化する.慢性膵炎の非発作時では,多くは正常値であって,むしろ異常低値を示すこともあるといわれる.その他の膵疾患ではむしろ異常値を示す場合が少なくなる.したがって,血液アミラーゼ値は膵障害の否定材料とはなりがたいわけである.他の1つは,血液アミラーゼ量の異常は比較的に膵病変に特異的ではあるけれども,時として膵とは無関係の場合もありうることである.1938年Somogyiが血液アミラーゼの微量量定量法を報告して以来,膵障害を主体としない病態においても時として血液アミラーゼ値に異常をきたすことがあるという事実はますます確実にされるにいたった.
急性膵炎に対する開腹手術の予後の悪いことはすでに異論の余地がない.もし,膵炎に由来しない急性腹症患者において,血液アミラーゼ値の異常上昇のゆえに対症療法に終始するとすれば重大な結果をまねくこともありうるわけである.血液アミラーゼ値の解釈に2つの限界のあることは前述のごとくであるが,臨床的には膵障害に直接由来するとは考えがたい血液アミラーゼの上昇,いわゆるfalse positiveの取り扱いがもっとも問題である,Raffenspergerは小腸の不完全閉塞症例において血液アミラーゼ値の上昇から急性膵炎として治療し,開腹手術の時期を失して死にいたらしめた反省がfalse positive症例の検討を報告する動機となったと述べている.
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