読後随想
—五人のカルテ マイクル・クライトン著 林克己訳 医学をみる眼 中川米造著—病院のあり方はこれでいいのか
長洲 光太郎
1
1関東逓信病院外科
pp.555-556
発行日 1972年4月10日
Published Date 1972/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204070
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"原点に帰れ"の乱用
医療問題を考えるのに二通りのアプローチがある.医者の立場からと患者の立場からとである.評論家をふくめて社会からのアプローチは患者の立場からのそれであるといえよう.それぞれのアプローチは単独では完全ではない.なぜなら医者は患者社会あるいは広くその国の経済状態に明るくないし,同時に患者のほうは医学や医者の立場に明るくはないからである.生命は地球より重いという錦の御旗にはだれも反発しようがない.それゆえにこそ,このような「反揆不可能」なテーゼにだけたよる論評は多分に情緒的で,箸にも棒にもかからぬことになるのである.そもそも考えたり,論議したり,疑ったりすることがないならば,論というものが成り立たないからである.だからわれわれはあまりに安直に,反揆不能な金言だけをふりまわして議論することを警戒しなければならないのである.
医者のほうでも近頃は専門家分化が至上命令のごとく言いはやされている.その結果,すでに今日現在でも「専門家はいても,医者はいない」という悲しむべき状態に陥っているではないか.各専門が閉鎖的になり,自分の専門をふりまわすのは,反揆不能の金言だけにたよって議論しているのと同じことである.
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