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医療における法と倫理
唄 孝一
1
1都立大法学部
pp.4-5
発行日 1972年1月10日
Published Date 1972/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203958
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毎日のごとく論ぜられる医療問題に対して,これを患者側から権利闘争なかんつく,損害賠償訴訟として追究し,それにより医療向上に役立たせようという意見は国民の内にかなりひろがっているようである.たしかに日本の現在の医療にはあまりにも問題が多すぎる.それらに対して訴訟が果している役割は小さくないし,今後ますます大きくなるであろう.しかし,果して法や裁判によるテコイレだけで医療はどれだけ向上するものだろうか.この点はよほど吟味しておかないと,時には意外の壁の厚さのため却って無力感におちいるし,また一歩間違えば角をためて医療を殺すことにもなりかねない.注意すべきことは,裁判や法が外から医療に口をはさむことは,必ずしも医療の側からの内的な呼応をもたらすとは限らないことである.法により追究された者が法網をするりと逃げることに汲汲としたり,そうでなくとも,ぎりぎり法の要件をみたすことにのみ堕するということは,まま起こりがちのことだからである.
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