読後随想
現代アメリカの病巣を切る—紀伊国屋書店刊・なだ いなだ訳—スポック博士の現代診断
長洲 光太郎
1
1関東逓信病院外科部
pp.658-659
発行日 1971年5月10日
Published Date 1971/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203627
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育児書の流行
育児というものは私なんかが考えるよりずっとむずかしいらしい.育児書というのが大変流行している.それが相談相手のない核家族化に原因しているらしいことも通説であり,また育児相談的な本が出れば出るほど,若い母親は—昨日までマイダーリンといって呑気にマイホームの中で暮していられた—ますます迷うということになる.身体的な問題から精神面へ,そして学業からその児の将来の社長か博士のイメージまで安売りする育児入門はいくら書いても書ききれるものではないし,またいくら読んでもたいした足しにはならない.だからまた次の育児相談書が売れる—といったぐあいである,私はそういう書物の氾濫に一種のコッケイさを感じる.
実はこんなことを言い出したのはベンジャミン・スポック博士という人を「スポック博士の育児書」というベストセラースズで知っていたからである.本のほうは読まなかった.ニューヨークの小児科開業医,ピッツバーク大学教授を経て,クリーブラントのウェスタンリザーブ大学医学部名誉教授である.念のためしるすとベストセラーになった育児書の原題は"The Common SenseBook of Baby and Child Care"というのである.精神科医的小児科医であることは経歴でもわかる.
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