診断のポイント
虫垂炎
野並 浩蔵
1
1東京第二病院
pp.1285-1286
発行日 1967年9月10日
Published Date 1967/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201911
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右下腹部痛即虫垂炎は誤診のもと
虫垂炎という病気は1886年Reginald Fitzがこれに関する論文を発表するまで医師でもだれにもなにごともいわれなかつたらしいが,しかし最近では盲腸炎といえばしろうとでも日常茶飯の病気のように安易に考えているように思われる現状である。たしかに虫垂炎ははなはだしく頻発する疾患である。全人口の約半数は一度は虫垂炎にかかるとさえいつてる人もあるくらいで,軽症はまつたく自覚症状なく経過するものがあり,また疼痛発作を起こしても医師を訪れない患者も多く,剖見で虫垂炎の瘢痕がみいだされてしかも虫垂炎の既往歴のないものをしばしばみうるということも理解できるわけである。このように例数が多いので教科書的な症例では診断は容易であるが,非定型的な症例においては非常に困難になることもある。単純に右下腹部痛をなんでも虫垂炎と診断すると大変な誤診のもとになる。また反対に腹痛を伴ういかなる症例にもいわば急性虫垂炎は鑑別診断を要する疾患のなかにはいつている。それにもかかわらず外科医が初歩の訓練のためにまず虫垂炎の手術を手がけるとよく聞くが,けつして容易な手術の手本とばかりとはならないであろうと思う。故塩田博士は「盲腸手術はやさしかたし」といつているが,けだし名言である。なおかつて私のほうの病院の外科で急性虫垂炎の診断で切除した虫垂を全部病理組織学的検査を行なつたところ,その1/10は完全に虫垂炎でなく,明らかに誤診であつた。
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