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きのう・きよう・あした
和田 武雄
1
1札幌医大内科
pp.1825
発行日 1965年12月10日
Published Date 1965/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201102
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×月×日 ハンガリー・ラジオより便り。合唱団の人たちを診た礼状であるが,私がgood Samaritanでありたい,などと気どったいいかたをしたことが,驚きだつたらしい。カゼひきで寝込んだチボーが,自分のうたつているレコードだから,といつてカバーにサインをしてくれたが,その写真の真中でかれはいまも笑いかけている。目を閉じると,あの子らの美しい合唱が耳の底に残つているのだが,解放20年というハンガリーの政治意図を聞かされると,どうぞイデオロギーの渦のなかに,この清らかな声がかき消されるようなことがないように,と祈らざるをえない。
政治理念と人間性の高揚。それは完全に一致した方向になければならないはずなのに,それを実行する段階になると動物的人間がむき出される。前者のみの闘争,闘争が叫ばれて,肝心かなめの後者は影をひそめてしまう。作られたものとしての人間には,自らの手では埋めえない陥せいが,そこにある。
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