EDITORIAL
内科医のあり方—医学の社会化を目指せ
前川 孫二郎
1
1京大内科
pp.505-507
発行日 1965年4月10日
Published Date 1965/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200767
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内科医の現状を憂える
今日の内科医のあり方でもつとも重要な問題は,医学の社会化ということではなかろうか。現行の社会保険制度の矛盾は,いろいろの原因もあろうが,もつとも重大な原因は,従来の医者が医学の社会化ということにあまりにも無関心であり過ぎたためではなかろうか。もともと医学は善意の学問であり,医学それ自身はその当初から自分自身の社会化を考えている。それが今日の公衆衛生の発達であり,現今の文明社会はこの恩恵にもとづいて繁栄しているのである。その最たるものが急性伝染病に対する防疫であつて,これなくして現代の文明国の繁栄はまつたくあり得なかったのである。臨床医学も医学の一分野,というより古来から主役であり,善意の学問たるにちがいないのである。したがつて太古は宗教的色彩をさえおび,現在でもそれと手をつないでいる例はいくらもある。私の少年時代,医者は自ら国手をもつて任じ,国家もそれを認め,何の不安もなく人間の善意の上にあぐらをかいていたようにさえみえた。未だ多くの急性伝染病が民衆をおびやかし,医者の必要性が切実であつたからであろう。しかし防疫が完備し.ワクチンや抗生物質が発達した現在,ちようど「治にいて乱を忘れる」諺のように,民衆は次第に医者への切実な善意を忘れがちになる。そしてちようど防疫施設やワクチン注射のごとく,医者の役目を国家の制度と,化学工業による薬剤との効果に置き換えようとしている。
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