EDITONRIAL
辺地の医療
和田 武雄
1
1札幌医大・内科
pp.25-27
発行日 1965年1月10日
Published Date 1965/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200637
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絵画的異国情緒と旅愁の裏がわに
北海道をさらに北へ向って網走市まで行くと,その近くに原生花園がある。そこを訪ねる人はまず一様に「黒百合はどれ」と聞くそうである。また目の前にひろがるトーフツ湖一帯の景色や,咲き乱れる花をいだくようにもり上つた砂丘の連なりが,絵画的異国情緒を漂よわすとか,旅愁を誘うとかいつて讃えられる。だがわたしが思うには,砂丘の向うにつづくオホーツク海の鉛色のうねりこそ見るべきもので,それによつて夢のような感傷がグッと引き緊められることを見落す人が少なくない。そこの花は遅い春から早い夏にかけて盛りとなるが,そのような時分にもこの海の印象はまことに重苦しい。ましてや流水がそこを閉ざす頃においては想像にあまりあるものがあろう。
羽田を飛び立つと1時間でチトセ空港に着く。そこは火山灰台地で南は沼沢地につづいて勇払原野がひろがる。そのあたりは作物の実りも少なく,白樺や柏すら満足に育たない荒地である。しかしあの可憐なスズランはそうした土地にしか花をつけないのである。
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