ひろば
辺地農村にて思うこと
大西 若稲
1
1稚内市開拓営農指導所勇知支所
pp.465
発行日 1967年8月15日
Published Date 1967/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203512
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辺地農村に駐在してついに半生近くを送ることになった現在,痛切に感じることは,人間のおかれた場によって生ずる人間の格差という点である。ここに生きる人々はことさらに生活のきびしさに立向っていかなければならない。
都会の人々とのこの格差は,文化,行政,経済,諸般にかかわるものであるが,私は職務の関係上とくに公衆衛生の分野でその感が強いように思う。辺地農村のこれらのギャップはわずかに,あるいは特定な少数の人々のニュースになるような善意と,犠牲と,熱意と,愛情によって埋められているにすぎない。ともすればこれらはあくまでも個人プレーにしか終らない。ここに辺地農村の問題点があるのではないだろうか。現地では個々人の努力だけではどうにもならない問題がある。それは辺地であるという特殊性と,農業者であるという職種性とが相まって,複雑な様相を呈している。一例を医療施設にあげてみると,交通機関のまったくない積雪路を4時間も馬車にゆられ,さらに1時間の列車に乗り,病院の待合室で2時間余も待たされて,3分の診断を受ける。疾病を持つ人が,12時間のうちの3分を忍耐強く待つことをしいられるのである。
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