書評
緩和内視鏡治療
大木 隆生
1
1アルバート・アインシュタイン医科大学付属モントフォーレ病院血管外科部
pp.1681
発行日 2003年10月10日
Published Date 2003/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107401
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レーザー治療や粘膜切除術などに代表されるように,多くの消化管疾患治療において,内視鏡が重要な役割を演じていることは周知の事実である.こうした病気を“根治”する分野においては,本邦の内視鏡技術は世界をリードする立場にありながら,本書で述べられている“緩和”を目的とした分野においては,米国の後塵を拝しているといわざるを得ない.
米国では,政治,経済にとどまらず,医療界においても徹底した合理化,民主化が進められている.合理的な医療とは,すなわち理にかなった,無駄のない医療であり,民主的な医療とは,患者中心の医療である.患者にとって理にかなった医療を行う土壌が成熟している米国において,PEGや消化管用ステントをはじめとする緩和内視鏡技術が速やかに普及したことは偶然ではない.一方,こうした優れた治療法が本邦では注目されにくかった理由は,日本の医学界が,政治,経済同様,主権在君的で,そのうえ,重厚長大を良しとしていたことと密接に関係しているように思われる.医療における主権在君は,すなわち医療者中心の医学であり,重厚長大は,延命を第一目標とした根治・拡大手術礼賛主義である.こうした風土が,本書で述べられている緩和医療の市民権獲得を遅らせたといっても過言ではない.21世紀の医療は,根治術のさらなる進歩のみならず,患者のQOLを最小限の侵襲で向上させ,いかに病気と共存するかが大きなテーマとなるであろう.その意味で,本書はこれまであまり注目されなかった新しい分野を切り開く画期的な著書である.
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