- 有料閲覧
- 文献概要
レボフロキサシン(LVFX)の発見・開発は,当時わが国でニューキノロン系薬として最も頻用されており,有効性・安全性の評価も高かったオフロキサシン(OFLX)の次の新薬の開発を目的として行われたものであった.しかし,OFLXの周辺化合物からは有望なものが見当たらず,そこで注目されたのが,光学異性体であった.OFLXは2つの光学異性体(l体,d体)が一対となったラセミ体構造で,光学異性体は同じ分子構造でも,しばしば作用の違いがみられる.OFLXのそれぞれの光学異性体を分離し,それぞれの抗菌活性や毒性を調べてみると,l体のほうがd体よりも8~125倍も抗菌活性が強く,毒性もはるかに低かった.つまり,l体のみを分離精製すれば,OFLXよりも強力で,安全性も優れた新しいニューキノロン薬ができあがることとなる.当時新しく開発された技術を用いて,このコンセプトを実現し,開発されたのがLVFXである.LVFXはOFLXの半量の臨床使用で,OFLXと同等以上の臨床効果とより優れた安全性を示すことが確認され,発売以降,わが国はもとより世界の多くの国や地域で,最も信頼される感染症治療薬の一つと評価されるようになった.
LVFXの発売当初,PK-PD理論はわが国では一般には十分浸透しておらず,濃度依存的な殺菌性を示すニューキノロン系薬も,わが国では1日3回の分割投与が行われていた.しかし,欧米ではPK-PD理論の応用から,発売当初から1日1回の投与で,投与量も500mgと高用量が用いられていた.さらに,経口薬のみが臨床使用されてきたわが国と異なり,海外では発売当初から注射剤型の臨床使用も開始されていた.わが国でこの1日1回投与や注射剤型が用いられるようになったのは最近のことであるが,わが国で開発された薬剤が適正使用で海外に後れを取ったということは,ある意味奇異な現象である.現在もLVFXは,わが国のみならず海外でも最も多く処方されている抗菌薬の一つである.しかし近年,LVFXにも耐性化の問題が生じつつあり,大腸菌などではすでに事態は深刻である.また,呼吸器感染症で最も重要な病原菌である肺炎球菌でもその兆しがみられ,アジアの一部の地域ではすでに高頻度との報告もある.これを少しでも遅らせるための努力は臨床医にとって重要な使命であり,そのためにはLVFXの適正な使用,すなわち不必要な使用を避け,使用に際しては投与法や投与量,投与期間に十分な配慮が求められる.昨今ではLVFXに勝る活性を有する新しいニューキノロン薬もいくつか登場しており,耐性化防止のためにはこれらの活用も必要であろう.しかし,きわめて優れた安全性を誇るLVFXは,それゆえに海外ではさらに投与量を増して1日750~1,000mgでの使用も行われており,わが国でもそのような試みが行われてもよいのではないかと考えている.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.