連載 Festina lente
電子化の光と翳
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
pp.2007
発行日 2011年11月10日
Published Date 2011/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402105657
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学会前に大わらわでスクリーントーンでグラフを描き,ブルースライドを撮影したのは私の世代が最後だろう.海外とのやり取りは航空便で,タイプライターで打った.ファクシミリさえも稀だった.ポケットベルを携帯していた身には,患者の家族が持っていた弁当箱大の携帯電話を初めてみたときは驚きだった.以来二十余年.電子メールを読み書きしない日はまずない.海外に転居する患者を引き受けて貰えるかどうか電子メールを出したら,1時間後に快諾の返事が来た.電話会議もTV会議もできるし,スライドは作成・上映・送付自由自在である.大抵の学術誌の電子版は自室のPCで読め,図書館で重い製本済み雑誌と埃だらけで格闘することもなくなった.
電子化の恩恵と利便は遍く行き亘り,昔の不便を思い出すほうが大変である.逆戻りはあり得ないけれども,河合隼雄先生の名言「二つ良いこと,さてないものよ」の通り,光には必ず翳が伴う.
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