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生理活性物質の活性を“光”を用いて制御する方法が注目を集めている。細胞が生きた状態を保ったまま,望む時間・望む場所に“生理活性”という刺激を与えられるためである。光は高い空間・時間分解能を持つため,細胞機能の精密な制御が可能となる。光照射により生理活性が大きく変化する化合物は,一般に“ケージド化合物”と呼ばれる1,2)。ケージド化合物は,通常,生理活性に重要な官能基を光分解性保護基で保護して不活性化することで作製するが3),光照射により光分解性保護基が脱保護されることで本来の生理活性を取り戻す。現在までに多数のケージド化合物が報告されており,様々な重要な生命科学的知見を与えている。ケージド化合物を用いることで初めて可能となる研究は数多く,なかでも個体発生や疾患の進行などを研究するうえで非常に重要なツールになると期待されている4)。
ペプチドは,種々の酵素活性やタンパク質-タンパク質間相互作用の阻害,様々な受容体への結合能などの生理活性に加え,バイオミネラリゼーションやペプチドの自己集合を利用したナノ材料など,多彩な機能を持つ。これらの機能を光で制御できれば,幅広い領域の研究に役立つと期待される。光を用いて機能を制御できる“光応答性ペプチド”が幾つか報告されており5,6),その設計原理から二つのグループに大別できる(図1)。まず,ケージド化合物のように,活性に重要な官能基を光分解性保護基で保護する方法がある(図1A)。この方法は光応答性ペプチドにもよく用いられ,セリンやアスパラギン酸,リシン,リン酸化アミノ酸などの側鎖が光分解性保護基で保護されうる。しかし,幾つか問題点がある。まず,フェニルアラニンやロイシンなど,既存の光分解性保護基では保護できない官能基が活性に重要な場合,この戦略は適用できない。主鎖のアミド結合を光分解性保護基で保護した例もあるが,立体障害の少ないアミノ酸近傍に限られるなど,その適用は限定的である7)。また,ペプチドでは活性に重要な官能基の数が多く,複数存在していることも少なくない。その特定にかなりの労力が必要になると予想される。次に,適切な位置関係にある側鎖官能基を“光異性化する分子”でクロスリンクし,活性コンフォメーションを制御する方法がある(図1B)2,8)。この手法には,活性を可逆的に制御できるという大きなメリットがある。しかし,結晶構造解析などから活性コンフォメーションがあらかじめわかっており,どこにどの長さのクロスリンカーを入れればよいかの指針がある程度明らかになっている必要がある。また,“活性型”にも立体的にかさ高いクロスリンカーが存在しているため,標的タンパク質との相互作用様式によっては活性が大きく低下する可能性がある。以上のような問題点を抱えているが,“可逆的な活性制御”という魅力は大きく,現在活発に研究が進められている2,8)。
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