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髙階先生は本田宗一郎氏に似ていると私は思う.各界に偉人といわれる人々は多いが,髙階先生は現在79歳であるにもかかわらず,間違いなく今も“現場”の人である.本田宗一郎氏の伝記を読むと彼が晩年まで“現場”で生きていたことがわかるが,髙階先生もしかりである.実際,髙階先生の考案したタコ足聴診器からコンピュータをいち早く取り入れたシミュレータ“イチロー”の開発などをみていると,本田宗一郎氏が油にまみれながら原動機付き自転車からF1レーシングカーまで作っていった経緯と似ているように思う.両者には“自分自身の手によって現場で工夫する”という哲学が共通しているのである.昔の日本には上記のような哲学がさまざまな場所で多く存在したのではないかと思うが,現在の日本では少なくなったことは間違いない.私が髙階先生を尊敬しているのはこのような哲学をもち,実践し,他者を指導し,そしてそれを楽しんでいるからである.髙階先生は,臨床医として活躍されているだけでなく,臨床心臓病学教育研究会(JECCS)を立ち上げられて医学教育に長年尽力されてきた.近年,医師不足または偏在による医療崩壊が叫ばれるようになって久しいが,これまで以上に医師の質を担保する卒前および卒後教育が重要となっている.このような状況を考えると,髙階先生の実践的医学教育がまさに求められている時代だと思う.
本書は心臓病について架空の医学生および研修医(メディック)をシミュレートして心臓疾患について質疑応答を行うことで,病態,ベッドサイドでの診療,検査法,治療を学んでいくという形式で書かれている.つまりオムニバス形式なので最初から読む必要はない.読者のレベルや関心の度合いによって適当な箇所から読み始めてよいのである.記述されている内容はベッドサイドでの診療を想定して書かれているので,基本的事項が中心となっている.つまり,循環器専門医を志す若い医師または医学生を対象とした書籍内容ということができる.ところが実際に読んでみると髙階先生の哲学である“実践的”な精神が発揮されており,ベテラン循環器専門医にとっても役に立つ情報が随所に出てくる.このため,本書はむしろ臨床の現場で患者さんと向き合っている先生方の役に立つのではないかと思う.研修医と一人前の臨床医の双方にお薦めしたい書籍である.
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