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教訓となった症例(1)
山口 哲生
1
1JR東京総合病院呼吸器内科
pp.79
発行日 2003年11月30日
Published Date 2003/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402102448
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医学部卒後1年目の1978年4月,私が大学病院に残らずに地方の一病院に勤めたのは,とりあえず普通の給料がほしかったからである.外来は医師免許証を取得した5月から1人でやらせてもらっていた.手術の手伝いもさせていただいた.内科医のほぼ全員が消化器系のこの病院では,その他の疾患の専門的な指導などは望める状況ではなかったが,1年間で多くのことを学んだ.そして最も大きな収穫は「不十分な医療は不本意な結果を招く」という,よりよい医療を行うための根幹となる教訓を得たことであったと思う.当たり前の教訓ともいえるが,不十分な医療を教えることができない今,あれはきわめて貴重な経験であったのだと思い返している.その教訓をもたらしてくれた症例をいくつか呈示したい.
〔症例1〕 1978年6月.60歳代男性.息切れを主訴として独歩で来院.ひどい亀背があったが,その他の身体所見に異常はないとした.「息切れは亀背のせいだろうか」などと勝手に考え,胸部X線像も異常なしとして帰宅させた.夜に息切れが強くなり,他の先生が往診したところ,著しい心収縮期雑音があり「心筋梗塞後のVSDか乳頭筋断裂だろう」とのことであった.私のカルテには「heart sound; no murmur」と書かれてあった.私は本当に聴診をしていたのだろうか.胸痛のない心筋梗塞など思いもよらず心電図もとっていなかった.その夜半に患者は亡くなられた.
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