特集 公衆衛生/予防医学と分子生物学
感染症予防への分子生物学的アプローチ—成人T細胞白血病の民族分布
田島 和雄
1
1愛知県がんセンター研究所疫学部
pp.825-828
発行日 1995年12月15日
Published Date 1995/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901385
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動く遺伝子とも考えられるヒト白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus:HTLV)は日本と米国で独自に発見され1,2),それが主原因である成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)3)は主にアジアの日本人,アフリカの黒人,およびそれらに関連した民族に分布する.HTLVはその他にもオセアニアのメラネシア人,南米の先住民などに特異的に分布していることが明らかになってきた.一方,シアトル出身の毛髪様細胞白血病(T細胞型)患者から別型のHTLVが分類され,それは先のウイルスと区別するためにHTLV-IIと命名された4).
ATL以外にもHTLV-I原因で慢性脊髄症(HAM)が少なからず発生し5),両者は発生機序の観点から免疫学的に極めて興味深い.HTLV-IIの遺伝子はHTLV-Iのそれと約70%の相同性を示し,最近では中南米の先住民に広く分布していることが明らかになってきた6).HTLVは外来性のウイルスであるが,主な感染経路が母児間と夫婦間であるため,感染者の分布も極めて特異的で限られた家族や部族内に集積している7).ここに至って,HTLV-IとHTLV-IIの感染者の世界の分布が民族移動の歴史や現時点における世界の民族分布に重要なかかわり合いを持ってきたのである.
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