視点
新しいがん戦略構想
杉村 隆
1
1国立がんセンター
pp.529-530
発行日 1994年8月15日
Published Date 1994/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901083
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新しい対がん戦略構想を考えるにあたって,最近の10年の進歩を十分に理解して策をたてることが大切と思う.がんの科学がこの10年ほど進歩し,がん細胞の微妙な異常機構がこれほど明らかになったことはない.ここに筆者が述べようとすることは私見であり,委員会等で決定されたものでは全くない.
がん細胞は,正常の体細胞の持っている遺伝子(1個の細胞あたり約10万種類あると言われている)の中の10個位の変化により引き起こされる遺伝子の病気である.がんになるものは,特別に意味を持った遺伝子である.総種類数は百を越えると思われる.もちろんその遺伝子生産物は,正常細胞や正常個体にとっては重要な機能を果たしていたものである.すでに,前世紀から,がん細胞の特徴は,個体(患者)の都合を考えない細胞の自律的増殖と,がん細胞が発生した場所から,増殖しつつ,周辺の正常組織を壊し広がってゆく浸潤と,発生した場所から離れて,他の離れた場所で増殖する転移とであると認識されていた.
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