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■はじめに
平成27(2015)年3月に地域医療構想策定ガイドラインが公表され,また6月には構想策定のためのツールを用いた研修会が,都道府県の担当者を対象に国立保健医療科学院で開催された.各都道府県でも医師会を中心に構想策定のための準備が進みつつある.
今回提供される推計ツールは二次医療圏単位が原則となっている.そのため,二次医療圏をいくつかに分割したり,あるいは二次医療圏の境界を越えて圏域を構想することは,そのままではできない形になっている.そのためいくつかの都道府県からはすでに,そのような状況に対応したツールの提供の要望も出されている.
ここで問題になるのは,傷病別・病期別に見た患者の受療行動は地域ごとに異なっており,またその対応策も地域ごとに異なってくることである.例えば,福岡・糸島医療圏の場合,東部・西部・中央から南部の3つの地域で患者の受療行動がまとまっているが,東部に隣接する粕屋医療圏の場合,同医療圏北部の住民は福岡・糸島医療圏東部,そして同医療圏南部の住民は福岡・糸島医療圏中央から南部の医療施設を受診することがわかっている.東京都の場合は,DPC病院への入院に代表される急性期医療と療養病床への入院に関して患者の受療行動が全く異なっており,しかもそれは埼玉県・千葉県・神奈川県を巻き込んだ大きな動きになっている.さらに鹿児島県の場合は,回復期・慢性期に関しては各医療圏でおおむね自己完結しているが,急性期入院治療に関しては鹿児島医療圏に集中しているという状況がある.
こうした住民の受療行動は,施設の偏在によってもたらされている面も否定できず,したがって住民の立場からみた時,機能別の病床の地理的配分はどのようであるべきなのかは当然議論されなければならないであろう.しかし,医療も経済行動である以上,医療提供者側の意思も尊重されなければならないし,またマクロでみたときに配置の効率性も考慮されなければならない.傷病ごと・医療機能ごとに圏域を考えるという方針はすでに第5次医療計画で出されたものであったが,これまでこの問題が都道府県の医療計画で具体的に検討されることはまれであった.少子高齢化の進行,医療技術の進歩,医療に対する国民の意識の変化,経済環境の変化などによって医療をめぐる「ヒト・モノ・カネ」といった資源制約が厳しさを増している今日,改めてこの問題に向き合わざるを得なくなっている.この圏域問題に,今回の地域医療構想にあたってすぐに結論を出すことは不可能であろう.とりあえずは現在の二次医療圏をベースとして構想をたて,平成30(2018)年に予定されている第7次医療計画に向けて必要なデータを体系的に整理していく作業を,今回の構想策定と同時並行で行っていく必要がある.
連載の7回目である本稿では,現在活用できるデータでどのようなことを検討すべきなのかを,東京都と鹿児島県を例に説明してみたい.
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