保健婦活動—こころに残るこの1例
在宅療養者への関わりから学んだこと
井上 友子
1
1愛媛県伊予郡双海町役場
pp.358
発行日 1992年5月15日
Published Date 1992/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900579
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A氏(78歳)は,パーキンソン病.生活力,介護能力に乏しい妻との二人暮らし.働き者で,入院する日まで畑仕事をしていた.退院4カ月後,民生委員からの連絡により訪問した.A氏は,30Wの消された電球からクモの巣がぶら下がり,尿の臭いが鼻をつく雑然とした部屋の中で,汚れて茶色になった布団にくの字になって寝ていた.表情は硬く,声をかけても短い返事のみ.排泄時と食事の時に坐る程度で,親戚や近所づきあいもなく,孤立した状態であったが,A氏夫婦はこの生活に疑問をもっていなかった.私は,“このまま放置すれば,生きる気力もなくして寝たきりになってしまうのではないか”との思いと,今後の関わりに戸惑いと焦りを感じた.
10日後,訪問健康診査を実施し,保健婦だけでは抱えきれないケースと判断.民生委員会での事例検討や医師,保健・福祉の関係者との話し合いで,不潔,悪臭への対応,理解力に乏しい妻への働きかけ,ヘルパーの派遣拒否などについて検討をした.しかし,A氏夫婦の受け入れが難しいということで,結論はでなかった.
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