連載 ヒトとモノからみる公衆衛生史・12
入浴と清潔をめぐる近代史・3—日本の浴場問題と公設浴場
川端 美季
1
1立命館大学衣笠総合研究機構生存学研究所
pp.514-517
発行日 2024年5月15日
Published Date 2024/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401210300
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
入浴と清潔さの歴史について、前回は欧米で展開された公衆浴場運動に注目し紹介した。公衆浴場運動の中で造られた浴場に、日本の行政に関わる専門家や衛生家たちが同時期に見学に訪れている。
そうした欧米の公衆浴場運動を受けて、入浴をしない/できないとされる人たちへのまなざしも導入されるようになっていった。日本では多くの都市に公衆浴場は存在していた。しかし、前々回で紹介した浴場の水質検査に関して、1923(大正12)年に原田四郎らは「細民地域」は人口の割合に比べ浴場数が不足していると指摘しており、「市設浴場」を造り、住民を安く入浴させることを推奨した。大正期は、日常的に入浴するのが難しい人々に対して、入浴環境を保障するべく、行政による浴場すなわち公設浴場が実際に造られていく時期であった。
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.