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はじめに
今号から3回にわたり、日本における感染症サーベイランスの制度化経緯を検討する。ここでいうサーベイランスとは、厚生労働省が実施する、感染症法に基づく「感染症発生動向調査」と、予防接種法に基づく「感染症流行予測調査」を指す1)2)。
各回では制度化過程の画期となる事柄を取り上げ、(1)流行予測調査の始まり、(2)現在の発生動向調査に至る端緒、(3)発生動向調査を構成する検査情報体制の整備、について検討する。
明治期以来、伝染病の数の把握は伝染病予防法(1897年成立・施行)に規定され、当初の対象疾患は8種類であったが変遷を経て、1960年時点で厚生省が報告を求めていた伝染病は、法定伝染病11種、指定伝染病1種、届出伝染病14種、性病4種に結核と「らい」の計32種あった3)。感染症発生の3大要因として感染源、感染経路、宿主感受性があるが、明治以来行われてきたのは、主に発生時に感染源を把握することが中心であった。これに対し流行予測調査は、平常時から宿主の感受性について調べておくものだ。
日本では、1961年に社会から強い圧力を受けたポリオワクチン問題への対処を契機に、感染症サーベイランスの端緒が開かれ、流行予測調査が始まった。以下、社会、行政、専門家の動きに注目してその経緯を検討する4)*1。
ポリオ*2とは、ポリオウイルスの感染で生じる四肢の急性弛緩性麻痺をいい、感染しても90〜95%は不顕性感染、4〜8%は風邪様症状、典型的麻痺型を示すのは感染者の約0.1%にすぎない5)。ワクチンによる予防が可能で、不活化ワクチンと弱毒生ワクチンがあり、ソーク株を用いた不活化ワクチンは1950年代から各国で使用されていた。一方生ワクチンは3者が開発していたが、セービン株を用いて1959年までにソ連で行われた大規模野外実験でその安全性・有効性が確認され、以後広く用いられるようになった6)7)。
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