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感染症流行のリアルタイム予測とは,流行が拡大している途中に未来の流行を捉える計算のことを指す。予測(prediction)は学問的にはシナリオ分析(projection)と定量的予測(forecasting)の二つに分類される1)。前者は,特定の仮定の下で未来に何が起こり得るのかを記述するものであり,対して,後者は未来に何が起こるのかを先取り計算することである2)。リアルタイム予測の対象は主に後者である。ただし,予測対象は様々である。時刻と共に増減する新規感染者数をグラフ化したものを流行曲線と呼ぶが,定量的予測の対象はそれに限らない。地理的な流行拡大や年齢別の感染リスクの予測,経済的な被害規模の推定なども予測対象である。また,“未来”の定義も様々である。数日先に興味があることもあれば,1年以上先の予測を期待されることもある。
予測モデルには様々なものが挙げられるが,主に,感染症伝播のメカニズムを数学的に記述した数理モデル(機構的モデル)と,過去の流行パターンなどを利用して統計テクニックを駆使して定量的予測を施す統計モデルの二つに区別される。先端的研究の多くでは両者のいずれか一方に明確に分類できないものも多い。リアルタイム予測に関して言えば,感染症の予測よりも実績的に秀でているアプリケーション課題として天気予報が挙げられるが,それは統計学的な定量性に優れた機構モデルが統計モデルのように扱われて実施されている。また,ベイズ統計の技術の一部であるカルマンフィルターを利用する点では,既に社会実装されている天気予報と感染症の予測モデルは基本的な仕組みは同じである3)。最近では,天気予報に限らず,粒子フィルタリングなどベイズ統計の技術が飛躍的に発展し,新興・再興感染症のリアルタイム予測が実装されることが珍しくなくなった。技術革新の一端を紹介する。
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