- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
中国湖北省武漢市で突如発生し,2020年3月には,パンデミックへと発展した新型コロナウイルス感染症(COVID-19).この感染症のウイルスの性質も管理方法も分からない緊急事態に対応するために,わが国でも政府の諮問的な役割を担う専門家会議が構成され,その科学的知見についての迅速な情報発信が行われていた.専門家による透明性の高い情報提供がなされていた一方で,体制がないなかでのコミュニケーションは課題を生じさせることになり,発足から約半年後に廃止され,新たな会議体が設置されることになった.そこで重視された一つが,リスクコミュニケーションである.
多くの国々で,ヘルスコミュニケーションやリスクコミュニケーションの専門家が行政機関に配置されており,公衆衛生上の緊急事態が発生したときには,対策本部会議で決まった内容をただ伝えるのではなく,戦略的に一貫性のある情報を伝え,混乱をさせないように工夫している.
ところが,わが国にはそうした体制がないため,緊急事態への対応者が,その対応の合間に,住民や関係者への説明をはじめとするコミュニケーションを担うことになる.緊急時は,人々の恐怖や不安,不満や不信感が高まりやすいため,コミュニケーション戦略もなく,収集した情報や対策本部会議で決定した内容を伝えているだけだと,情報提供しているのに,誤解や批判の矢面に立たされることになりかねない.
そこで,本連載では,緊急事態対応を担う公衆衛生関係者が適切なコミュニケーションがとれるようになるために知っておきたいポイントを解説していく.
さて,平時に実施される「リスクコミュニケーション」と,緊急時に実施される「クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション」とでは,同じ「リスクコミュニケーション」という言葉が使われていても全く異なる.そこで今月号では,両者の違いをまず説明しよう.
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.