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はじめに
「日本再興戦略2016」1)(第2次安倍内閣による成長戦略.2016年)の中で海外人材の導入が議論されて,外国人労働者政策は大きな転換を迎えた.日本はかねてから人材不足が指摘されており,産業界は一斉にそれぞれの労働需給についてロビイングを活発化させ,海外人材の導入には大きな期待が寄せられた.
ただし,こうした展開は同時に動揺をもたらし,一部ではヘイトスピーチが行われ,不正確な報道も散見された.例えば,NHKの「クローズアップ現代+」(2018年7月23日放映)は,インバウンド(inbound)の外国人による医療保険の不正受給の結果をセンセーショナルに報道したが,厚生労働省は「在留外国人不適正事案の実態把握を行ったところ,その蓋然性があると考えられる事例は,ほぼ確認されなかった」と報告しており2),報道の根拠となった調査とは矛盾している.外国人のレセプト数約1,500万件のうち,偽装滞在の可能性が残るのはわずか2件であった.公共性の高いメディアでさえも自ら書いたシナリオに従った報道を行っており,その動揺が読み取れる.
日本の外国人政策は大きく変わりつつある.ビザなし渡航の拡大や,特区における家事労働者の受け入れはその一環である.2017年に技能実習法が制定され,介護が技能実習制度に加わった.また,同年に在留資格「介護」が創設された.これは,留学生が介護福祉士資格を取得した際に付与されるビザと理解してよい.さらに2018年には,後述するとおり,特定技能が導入される法案が明らかとなった.こうした改革を通じて,2025年までに30万人の外国人労働者が導入される予定となっている.
上記のような一連の政策転換によって最も影響を受けた産業の一つが介護である.現在の高い有効求人倍率や,将来にわたる人材不足の予測から,介護分野への海外人材導入はホットなニュースとなった.しかし,これまで筆者が従来から論じてきたとおり3)〜6),海外人材の受け入れには費用分担や労働者のリスクという点においてさまざまな問題がある.本稿では紙幅の都合から,特に技能実習に焦点を当ててその問題点を論じる.
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