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はじめに
地理情報システム(geographic information systems:GIS)は,デジタル化された地図データや位置情報を持つさまざまなデータを統合的に扱い,データの作成,視覚化,保存,利用,管理をする情報システムである.GISの内部では,道路,河川・湖沼,医療施設,家屋など多様な地物が重層的なレイヤーに分解されたデータ構造となっており,その上に,患者居住地,人口密度平面,気温平面など位置情報を持つデータであればどのようなデータでも重ねることができるようになっている.
近年のGISの普及は目覚ましいものがあり,地理学,環境学,犯罪科学,経済学,生態学,都市計画学,疫学・公衆衛生学など学術利用を中心とした活用から,マーケティング・ビジネスや一般向けの情報サービスまで広く活用されるようになってきた.Google社のGoogleマップ(Google Maps)やGoogleストリートビュー(Google Street View)などもGISの1つの形といえる.
政府や自治体のデータベースにもGISが取り入れられている.例えば,国土交通省の「統合災害情報システム」(DiMAPS),環境省の「環境アセスメントデータベース」(EADAS),e-Stat(政府統計の総合窓口)の「地図で見る統計」などである.これらの政府や自治体が公開しているWebデータベースの実態はWebアプリケーション型のGIS(WebGIS)といえる.閲覧者はこれらの情報サービスをGISであるとは意識せずに利用しており,それほどGISは日常生活に溶け込んでいる.
GISは,通常の情報システムにはない機能(空間検索,空間演算,空間分析など)を有するため,さまざまな分野において分析支援ツールとして活用されている.GISを活用すれば,異なる情報源からの情報を位置に基づいて連結し統合することが可能であるため,空間的な思考が実現され,その結果,個々の情報源からは得ることができない新しい知見を得ることができる.保健医療分野の地理空間情報は他の分野と同様に情報量が膨大で,かつ複雑であるため,その情報管理にGISは必須である.また,地理空間データ解析や空間疫学解析を効率よく実行するためにもGISが必要である.保健医療分野におけるGISの活用は多岐にわたっており,感染症サーベイランス・疾病地図,医療ニーズ評価,医療資源配分,医療アクセシビリティ評価などがあるが,本稿では,疾病の発生状況把握における活用に絞って解説する.
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