特集 公衆衛生活動と疫学
日本における疫学教育の現状と今後の展望
村木 功
1
,
磯 博康
1
1大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室
pp.890-895
発行日 2018年12月15日
Published Date 2018/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209025
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疫学の歴史
疫学は「要因と疾病との関連を明らかにする,人の集団を対象とした評価手法の学問」であり,19世紀の英国に起源を持つ.1854年8月に,ロンドンのブロード街でコレラが流行し,感染者の地理的分布から原因となっている井戸をジョン・スノウ(John Snow)が特定したことは,疫学の有名な史実である1).日本では,海軍の脚気の予防のため,当時の海軍軍医であり,英国医学を学んだ高木兼寛が「洋食+麦食」と「白米食」による介入比較試験を1884年に実施したことが疫学の先駆けとなった2).いずれの場合も,およそ30年後にようやく疾病の原因物質が特定されたが,原因物質が明確にならずとも,疫学によって健康を守ることができることが示された事例である.
しかしながら,日本では1869年にドイツ医学の採用が決まった.当時,英国医学が臨床に重きを置いていた一方,ドイツ医学が基礎研究を重視していたことや,原因物質がまだ明らかではなかったこともあって,疫学的関係性から予防に成功した高木兼寛の介入比較試験の成果については,日本の医学界に受け入れられるまでには長い時間がかかった.このような歴史的背景も,日本における疫学教育が欧米より大きく遅れることとなった一因として挙げられる.
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