特集 「放射線リテラシー」をめぐる課題
低線量放射線被曝と発がん・遺伝影響
稲葉 俊哉
1
1広島大学原爆放射線医科学研究所がん分子病態研究分野
pp.836-841
発行日 2018年11月15日
Published Date 2018/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209008
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はじめに
わが国で問題となった主な低線量放射線被曝には,①診断放射線,②環境汚染による外部被曝(福島第一原子力発電所の周辺地域など),③放射性物質による汚染食品の摂取などによる内部被曝がある.低線量放射線被曝で懸念される健康影響は,後日,出るかもしれないがんと遺伝影響,それに胎内被曝時の新生児への影響である.
まず,上記の①と②で被曝する放射線の性質が全く違うことを理解されたい.診断放射線の被曝時間はごく短く,単純X線写真で1秒以下,造影X線やCT(computed tomography)でも分単位以下なので,被曝時間当たりの線量(線量率)は高い.一方,環境からの被曝は,ごく低い線量率の放射線を月,年単位で被曝する(図1).したがって,①は高線量率低線量被曝,②は低線量率低線量被曝であるが,この呼称は紛らわしいので,便宜的に前者を瞬間的被曝,後者を持続被曝と言い換える.
瞬間的被曝と持続被曝は生物に与える影響が大きく異なる(後述する).また,一般人の瞬間的被曝は医療被曝にほぼ限られるが,持続被曝は空からの宇宙線,地面からの放射線に加え,あらゆる食物に含まれる放射性物質を摂取した結果としての内部被曝など,誰もが避けられない「自然放射線」を年間累積で1〜2ミリシーベルト程度,被曝する.
議論の土台となるデータも別である.瞬間的被曝は原子爆弾(以下,原爆)被爆者の疫学調査が重要であるが,持続被曝の議論には高自然放射線地域の疫学調査やマウスの大規模実験結果が有用である.
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