- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
Ⅰ X線診断の低線量放射線は危険か?
2004年にBerringtonら1)がLancetで,英国を含む15か国を調査対象として医療用のX線検査の頻度,放射線被曝線量と発癌の危険性について調査したところ「日本の放射線診断の利用回数は他の欧米諸国と比べて3倍ほど多く,癌患者全体の3.2%が診断用のX線の被曝によるものである」という衝撃的なデータを発表した。これは他国の0.6~1.8%に比べると日本が突出して高く,メディアに取り上げられたことによって大きな社会問題にまで拡がった。その反響の大きさから,論文内容の妥当性が問われ,多くの専門家によってデータが詳細に検討されることになった。その結果,今回の論文に用いた各国のX線検査や癌罹患率の基礎データは不確かで,特に発癌リスクの計算に広島・長崎原爆の高線量被曝のデータが用いられたことが大きな問題であると指摘された。それは高線量被曝のリスク係数をそのまま低線量被曝に用いたからで,低線量被曝に「直線しきい値なし仮説,linear-nonthreshold仮説」を適用することは妥当でないと多くの研究者が考えたからである。従来の放射線生物学では「放射線はすべて,どんな低い線量でも生物に対して障害作用をもつ」と考えられていたが,最近では低線量・低線量率の放射線は生物学的にほとんど影響しないという考え方がある2,3)。
それでは低線量・低線量率の放射線とはどの程度の線量を受容し,どのようなメカニズムで生体は放射線に応答し,さらに適応するのであろうか。本稿では低線量放射線被曝を正しく理解することを目的として,生体のもつ放射線適応応答のメカニズムについて考察したい(表1)。
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.