映画の時間
—あの時僕らは,世界と手をつないだ—マルクス・エンゲルス
桜山 豊夫
pp.427
発行日 2018年5月15日
Published Date 2018/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208899
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1963年6月26日に西ベルリンを訪れた米国のケネディ大統領は,ベルリンの壁を前にして「この壁は共産主義の失敗を最も如実に示している」と演説しました.1989年にベルリンの壁は崩壊し,その後,東欧諸国に民主化の波が押し寄せ,ついにはソビエト連邦も崩壊します.カール・マルクスやフリードリヒ・エンゲルスが提唱した,いわゆるマルクス主義の限界が露呈されたとも言われます.二人が「共産党宣言」を発行したのは1848年ですが,この時代のヨーロッパは産業革命による社会構造のひずみが顕在化し,貧困の嵐が吹き荒れていました.そのような時代背景の中で,資本主義が抱える問題点を指摘したこの2人の言説には無視できないものがあります.今月ご紹介する「マルクス・エンゲルス」は,マルクスとエンゲルスの二人の若き日の交流を描いた作品です.
貧しい村人たちが森の中で枯れ木を採集している場面から映画は始まります.そこに突如として馬に乗った警官隊が現れ,村人たちは容赦なく殴打され殺戮されていきます.時代は1840年代のプロイセンで,「木材窃盗取締法」が施行され,枯れ枝1本といえども所有者の許可なく森の外へ持ち出すことはできないとされていました.この法律を痛烈に批判する記事を書いたのが「ライン新聞」の記者,マルクスでした.しかし,プロイセン政府は言論を封殺し,ライン新聞は発禁処分を受け,マルクスはプロイセン(ドイツ)を後にしてパリに向かいます.
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