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先年岩波ホールで公開され,地味な映画にもかかわらず話題を呼んだ「ハンナ・アーレント」は,第2次世界大戦当時,ナチスの親衛隊(SS)や保安警察(ゲシュタポ)に属し,ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)に関与して,数百万人の人々を強制収容所に送るにあたって指揮的役割を担ったアドルフ・オットー・アイヒマンの裁判を描いていました.その冒頭,アルゼンチンに潜伏していたアイヒマンの身柄をイスラエル諜報特務庁が確保するシーンがありましたが,今月ご紹介する「アイヒマンを追え!」は「ハンナ・アーレント」で描かれたアイヒマン裁判の,いわば前日談というべき作品です.ドイツの敗戦後,混乱に乗じて逃亡したアイヒマンの行方を追った,ドイツのフリッツ・バウアー検事を中心に描いています.本作品では,冒頭,フリッツ・バウアー検事の生前のインタビューシーンが紹介されます.史実に基づいて製作された作品であることを印象づけるとともに,ホロコーストが現代に突きつける意味を考えさせる内容が,バウアーの肉声で語られます.先の大戦から70年以上が経過し,戦争を経験しない若い世代が大多数となって戦争の記憶が風化していく現在,わが国にとっても,たいへん重い意味をもつ作品です.
第2次世界大戦中,ユダヤ人であったバウアーは迫害から逃れて亡命生活を送っていましたが,戦後ドイツに帰国し,ヘッセン州の首席検事として司法業務に携わるなかで,部下の検事たちを指揮して,ナチスの罪者たちの摘発にあたっていました.しかし戦後の混乱のなかで,証拠も散逸し,かつてはナチスの政策に協力していた者たちも,それぞれ地方政府や国の要職につくようになっていたようです.そのことがバウアーにとっては腹立たしい一方,旧体制に関係していた者にとってはバウアーが疎ましい存在になっており,ナチスの残党の捜査はなかなか進みません.そんななか彼はアイヒマンの潜伏先に関する情報を掴みます.
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