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わが国の死亡率の歴史的な推移を見ると,第二次世界大戦直後に急激に低下しており,この低下は抗生物質をはじめとする医療の進歩の成果だと一般的には言われています.かなり前に,個人的にわが国の死亡水準の歴史的推移について分析していたことがあります.わが国の死亡率は1920年頃以降順調に低下していましたが,1930年代に入ると,それまでとは一転して停滞し始めます.1930年代は,社会経済統計を見ると,戦争に向かう社会情勢の中で,市民の経済格差が拡大し貧困が蔓延していたのではないかと思われる時代です.このことを考慮すると,この時期には貧困の蔓延が死亡率の停滞を招いたのではないかと推測されます.さらに,1947年以降の死亡率の急激な低下は,医療の進歩ではなく戦後の経済の回復によって起こった現象との解釈も成立するようにも思えます.すなわち,わが国の歴史的な死亡率の推移に社会状況,貧困の蔓延が大きな影響を与えていたのではないかとも考えられます.当然と言えば当然ですが,貧困は一国,一地域の死亡水準にも大きな影響を持っている重大な公衆衛生的問題ではないかと思われます.
本誌では,貧困と健康について2013年77巻の特集「若者の精神保健」などの中でも取り上げていますが,貧困に全面的に焦点をあてた特集企画は2008年72巻の特集「現代の貧困と健康」以来となります.しかし,この8年間にわが国の貧困問題は改善しているとは言い難く,公衆衛生上のさらに大きな課題となっており,緊急に取り組むべき状況は深刻化していると思われます.今回,特に子どもに焦点を当てて,健康と貧困について多様な側面から識者の方々にご解説をいただきました.本特集が皆様の貧困と健康に対する取り組みの一助になることを期待しています.
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