「公衆衛生」書評
—谷口清州 監修 吉田眞紀子・堀 成美 編—「半年vs. 3日」のギャップを埋める,日本の医療現場で渇望されていた書籍『感染症疫学ハンドブック』
青木 眞
pp.135
発行日 2016年2月15日
Published Date 2016/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208367
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はじめに
筆者の勝手な感覚で言わせてもらえば,日本の医療現場で数十年前から必要とされていた本が,今年(2015年)になってようやく上梓された.本書『感染症疫学ハンドブック』である.
なぜ,この種の本の出版が数十年遅れたのか.それは,この疫学という領域が感染症に限らず,医療・医学に必須であるという認識が国内のさまざまなレベル・領域で遅れたからである(そして今も遅れ,冷遇されている).その問題が現れた実例を示す.
1996年,大阪は堺市で数千人の患者を生み出した腸管出血性大腸菌O157:H7の集団発生は「半年」近く続いていた.本書の第1章を執筆されたJohn Kobayashi先生(以下,敬意と愛着を込めてJohnと略)に,「あなたが指揮を執れば集団発生を終息させるまで,どのくらいの時間が必要ですか」と聞くと,「3日……長引くと1週間かな……」.「!!」(参考までにJohnとのつきあいは10数年に及ぶが,彼に「はったり」という概念は存在しない).
この「半年vs.3日」のギャップを埋めるべく,このJohnをはじめ関係の先生がたの支援を受けて設立された実地疫学の拠点が「国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP-J:Field Epidemiology Training Program)」であり,本書は,このコースの卒業生の共同執筆により完成された.
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