衛生公衆衛生学史こぼれ話
38.屎尿処理
北 博正
1
1東京都環境科学研究所
pp.341
発行日 1987年5月15日
Published Date 1987/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207472
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屎尿処理は衛生公衆衛生学の大きな課題の一つであるが,都市部では水洗便所にして,下水道直結で終末処理して河海に放流すればこと足りると考えられている.しかし莫大な費用がかかり,見透しは明るくない.
太古の人類は随時随所で用を足したであろうが,そのうち木の茂みとか窪地などを利用するようになった.今日でも登山家は用を足すことを"雉を打つ"——おそらく猟師の射撃姿勢から来たものであろう——といい,飲料水を汚染する沢を"雉打沢"などといって用を足す場所を決めているのと似ている.牧畜民族は移動するので,このようなことに余り気を使うこともなかっただろうが,農耕民族は一定の場所に住むため,大きな問題となる.しかしこの人々は多くの場合,家畜を持ち,その屎尿を肥料とし,人間の排泄物を肥料として利用することはあまりなかったので,それなりに処理は容易であったが,日本人は家畜を持つことが少なく,代々,人間の屎尿に頼らざるを得なかった.屎尿は貴重な資源で,篤農家,精農家といった人々は外出先で便意を催しても家まで戻って用を足したというし,さらに屁をしたくなっても我慢して帰宅し,自分の田畑に気体肥料を散布したという,見て来たような話も残っている.
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