講座
ライフスタイルと健康—2.遺伝的健康度
森本 兼曩
1
Kanehisa MORIMOTO
1
1東京大学医学部公衆衛生学教室
pp.274-282
発行日 1987年4月15日
Published Date 1987/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207456
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.健康破綻における遺伝素因とライフスタイルとの交絡
疾病の発症は,遺伝素因と環境要因の交絡により決定している事実は今やあまねく知られている.この事実は四半世紀以前までは殆ど知られることなく,遺伝は漠然たる体質として,また環境は大自然そのものとして享受するべきものと解されてきた.しかしここ20〜30年における遺伝学と環境科学の目覚ましい進歩により,現在,医学・公衆衛生学が主要な課題としている疾病の大部分が,その程度の差こそあれ,遺伝素因と環境要因の交絡のもとにその発症が決定されることが次々と明らかとなってきた.例えば遺伝のみでその発症が決定されるものとしてDown症や,Lesch-Nyhan症等のいわゆる先天性の遺伝性疾患がある.また家族性大腸腺腫症(Familial polyposis coli)に代表されるように,中年期以降にその発癌遺伝子を持つ個人のほぼ100%に発症する重要な疾患も明らかとなっている.Klinefelter症等の染色体異常症候群も100%遺伝により決定される疾患群である.一方,フェニールケトン尿症は常染色体性劣性遺伝によりおこるアミノ酸代謝異常症で,放置すると精神の発達障害が生ずる.生後すぐさまPKUテスト(いわゆるガスリー法)により発見し,フェニルアラニンを欠いた治療食を与えて育てることにより,その発症をほぼ完全に防止することが可能である.
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.